東京都に聞く中小企業の土壌汚染対策~中小事業者のための今すぐ始める土壌汚染対策ガイドライン

中小事業者の土壌汚染対策を支援する動きは自治体でもあります。有害物質使用特定施設が国内で最も多い東京都では、「中小事業者のための土壌汚染対策ガイドライン」(改訂版:https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/chemical/soil/support/guideline.html )を作成し、これから土壌汚染対策を考える中小事業者に適切で円滑な対策を勧めています。中小事業者の土壌汚染対策でどのような支援を行っているのか。東京都環境局環境改善部の担当者に話を聞き、ガイドラインのポイント等を通じた対策の考えやその他支援策を紹介します。(エコビジネスライター・名古屋悟)

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◆基準不適合でも「即浄化じゃない」土壌汚染の制度◆


都内には水質汚濁防止法及び下水道法に基づく特定施設が数多くあり、毎年約300件の特定施設の廃止届出が東京都に行われていると言います。しかし、こうした施設が立地する土地の所有者や事業者の中には、土壌汚染対策法が施行されてから約20年が経過した今も、「有害物質使用特定施設を廃止して初めて土壌汚染対策法に基づく届出が必要なこと等を知る土地所有者や事業者もまだ少なくありません」と都の担当者は言います。


都ではこれから土壌汚染対策を実施しようとする都内中小事業者に向けて、土壌中の有害物質による健康リスクや土壌調査に関する基本的な知識、低コスト・低環境負荷で健康リスクを確実に回避する対策(合理的な対策)を選択するための具体的な手順等を分かりやすく示すことを目的にガイドラインを作成したとしています。


土対法の調査等の契機を知らないことに加え、土壌汚染対策法の基準を超えると、水質汚濁防止法等と同様に「基準不適合=浄化しなければならない」と考えてしまう認識が残っており、基準を超えてもただちに掘削除去を求めるものではなく飲用井戸等が無い場合は管理(表層で含有量基準超過の盛土等をして管理すれば良い)、飲用井戸があり措置が必要な場合においても掘削除去ではなく、封じ込めなどの管理や原位置浄化なども有効であり、こうした内容を一層周知していく必要性があるとしています。


そうした点を考慮して作成されたガイドラインは、「基礎編」と「詳細編」に分けて整理されています。


「基礎編」では「土壌汚染とは?」や「どういう時に土壌汚染を調べるのか?」、「基準不適合土壌が見つかった場合には?」、「合理的な対策を実践するには?」などについて、図を数多く入れてビジュアル的に分かりやすく解説しています。


「基礎編」を受ける形で具体的な内容などを紹介する「詳細編」では、「基準」や「法・条例手続き」、「対策技術」、「対策事例」などを整理しています。


ガイドラインでは事業者が一番気になる対策費用についても、各工法等別に概ねの目安を提示。各工法についても図で解説し、工期や費用を分かりやすく示しており、対策を考える中小事業者がイメージしやすい工夫を凝らしている点が特徴になっています。


◆操業しているうちから土壌汚染対策を考えることが大切◆


このガイドラインを作成した都担当者に中小事業者が土壌汚染対策を考える場合に大切なことを聞くと、「操業しているうちに土壌汚染対策に取り組むことが事業者ご自身の負担を減らす上でも重要であり特に、飲用井戸(健康リスク)があり、原位置浄化等を行う場合には、操業中からの取り組みが有効であると考えています」と強調し、操業中からの合理的な計画に基づく対策を推奨しています。


この操業中からの対策については、ガイドライン「基礎編」の「合理的な対策を実践するには?」で触れ、計画的に土壌汚染対策に取り組んでいたケースと取り組んでいなかったケースを図で比較。


計画的に取り組んでいた場合、操業中であるので対策方法の選択肢が多い事、対策費用を計画的に分散して支払うことができることなどのメリットがある一方、計画的に取り組まず有害物質の使用廃止等になって初めて対策を行う場合、次の土地利用計画が進んでおり、工期があり時間的に対策方法の選択肢が限られることや対策費用を一度に支払わなければならないなどのデメリットがあることなどを指摘しています。


◆工場等の事業者だけでなく、不動産はじめ関係する業界にもしっかり知って欲しい土壌汚染対策法の目的◆


都の担当者は大事な点として「土壌汚染調査等の契機となる土地の売却等に絡む関係業界における土壌汚染対策法等の制度の周知も重要だと考えています」と言います。


例えば、中小事業者が土地の売却等を考え、不動産業等に相談した時に、汚染があった場合、掘削除去・清浄土での埋戻しが必要だと言われるケースも少なくないそうです。こうした話を受けると、土壌汚染に詳しくない中小事業者は、浄化完了は早いものの高額になりがちな掘削除去工事をしなければならないと考え、費用等の課題に直面し、場合によっては売却や開発を諦めて汚染を放置したまま土地を塩漬けにするようなケースも出てきてしまいます。


こうしたことから、不動産業や金融業など関係してくる業界にも、土壌汚染対策法等の土壌汚染を巡る制度では、基準不適合が即掘削除去を求める内容ではないことを一層周知する必要があると担当者は指摘し、令和3年度には都内の不動者業に向け、「中小事業者のための土壌汚染対策ガイドライン」を周知するチラシを作成。業界団体を通じて約4万部を配布したとしています。


◆アドバイザーの活用を◆


また、都担当者は「事業者の皆様にはぜひ、土壌汚染対策アドバイザーや相談窓口も活用して欲しいと思っています」と述べます。


こうした支援制度は全国的にはまだあまり多くはありませんが、東京都では土壌汚染対策に関する一般的な相談を受け付ける「土壌汚染対策総合窓口」(直通:03-5388-3468)を設けており、土曜・休日・年末年始を除く9:00~17:00まで相談を受け付けています(無料)。


さらに、都では円滑な土壌汚染対策を支援・促進するため、土壌汚染対策アドバイザー派遣制度(https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/chemical/soil/support/advisor.html )も設けています。


これは、都の委嘱を受けた土壌汚染の専門家(国の「土壌汚染調査技術管理者」資格[T6]保有者)を依頼のあった中小事業者に派遣するもので、操業中や廃止時などに応じた相談に対応しています。


また、操業中から[T7]の調査・対策を促進するため、令和3年度からはアドバイザー制度を拡充し、操業中の事業場における土壌汚染調査を無償で実施しています(注1、2)。


例年50~60件ほどの派遣依頼を受けているとのことで、令和3年度は合計53事業者がアドバイザー派遣制度を利用。このうち、8事業者が操業中での相談だったとしています。操業中の相談者のうち、2事業者が派遣制度に基づく調査を実施したとしています。

注1:法令で定める公定調査

注2:この調査を受けるためには東京都環境確保条例に基づく届出を行い、対策が必要となった場合には、条例の規定に基づく対策を行うことが必要


◆操業中なら融資制度の活用も受けやすく◆


資金面で心配な事業者には融資制度もあります。


土壌汚染対策には日本政策金融公庫「環境・エネルギー対策資金」や東京都産業労働局「産業力強化(チャレンジ)」などの融資がありますが、操業中であれば事業資金の先行きが見えるため融資を受けやすくなることからも、都は操業中の土壌汚染対策を推奨する理由としています。


◆SDGsや脱炭素◆


合理的な対策を選択すると、世界的に重要視されている持続可能な開発目標(SDGs)や脱炭素への対応にも繋がる可能性があります。


土壌汚染対策でまだ多く見られる掘削除去は、高額な費用に加え、土壌掘削・搬出のための重機やダンプカーの使用による温室効果ガスの排出が多くなりがちですが、合理的な対策は現地での管理や浄化技術を採用することから、温室効果ガスの排出抑制にも寄与できます。


こうした考えに基づき、都は「環境・経済・社会に配慮した持続可能な土壌汚染対策ガイドブック」(https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/chemical/soil/information/grsr.html )も令和4年3月に発行しています。


これは、中小事業者が合理的な土壌汚染対策を検討する際にも参考になるものですので、参考にしてみてください。


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中小企業・個人事業主が土壌汚染に対応する時に参考となる情報を掲載していきます。 ※情報は時間経過とともに変わりますので、最新の情報をご確認してください。 ※当サイトで紹介する手順や技術、サービスの情報は、制度に照らし合わせた正当性、調査や対策の正確性等保証をするものではありません。土壌汚染調査・対策を実施する場合は必ず、所在する自治体担当部局、土壌汚染対策法に基づく指定調査機関にご相談ください。

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