【2025年2月特集前編】土壌汚染対策法見直しの議論で重要度が増す『地歴調査』
◆土地所有者等は『地歴調査』への備えが重要に!◆
土地所有者や有害物質使用特定施設を持つ事業者の方は、今、土壌汚染対策法の見直しの議論で、『地歴調査』が大きな関心を集めていることをご存知でしょうか?
環境省の諮問機関・中央環境審議会の水環境・土壌農薬部会土壌制度小委員会(委員長・大塚直早稲田大学大学院法務研究科教授)による土壌汚染対策法の見直しを視野に入れた議論が2024年秋から本格化していますが、この中で『地歴調査』が従来の位置づけから大きく変わる方向性が示されています。この制度見直しが決定すると、土地所有者等にとって『地歴調査』はこれまで以上に重要な意味を持ってきます。
◆地歴調査とは?◆
そもそも地歴調査とは、どんなものでしょうか。
地歴調査とは、土地の過去から現在の利用状況を調査し、土壌汚染の可能性を評価する調査です。土地の購入を検討している場合や、土壌汚染対策法に基づく調査などで行われます。具体的には以下のような方法で調べます。
▼登記簿謄本や古地図、空中写真などの資料
▼過去を知る人からの聞き取り(ヒアリング)調査や現地調査
▼行政への届出書類の確認これらにより、おおむね昭和初期頃から現在までの土地所有者と土地利用の変遷を調べたり、事業活動によって過去から現在までに使用や製造、保管、貯蔵された有害物質の種類や使用等の場所を調べたりします。
◆地歴調査で何が分かるのか?◆
この『地歴調査』の結果によって、「土壌汚染が存在するおそれがないと認められる土地」、「土壌汚染が存在するおそれが少ないと認められる土地」、「土壌汚染が存在するおそれがあると認められる土地」――等を判別し、なのかを評価します。
「土壌汚染が存在するおそれがあると認められる土地」となった場合、掘削機(ボーリングマシーン)等でその土地の土壌を採取して、具体的にどの程度の有害物質が土地にあるのかを調べる『試料採取等調査』を行うことになります。
なお、詳細な資料等が残っていれば、その土地における調査地点を絞り込み、試料採取等調査の調査地点数を絞り込み、調査費用を抑えることも可能になることがあり、『地歴調査』は土壌汚染状況調査等の初期段階で非常に重要なものになります。
◆現在の土壌汚染対策法での地歴調査は?◆
現行の土壌汚染対策法では、『水質汚濁防止法に基づく有害物質使用特定施設を廃止するとき』や『調査義務の一時的な免除を受けている有害物質使用特定施設を廃止した土地で900㎡以上の土地の形質変更を行うとき』、『3000㎡以上の土地(現に有害物質使用特定施設が設置されている場合は900㎡以上の土地)を形質変更するとき』に土地所有者等に都道府県などへの届出を義務付けています。
『水質汚濁防止法に基づく有害物質使用特定施設を廃止するとき』は、土壌汚染状況調査を実施し、その結果を都道府県等に提出することになります。
『調査義務の一時的な免除を受けている有害物質使用特定施設を廃止した土地で900㎡以上の土地の形質変更を行うとき』は、都道府県等が調査命令を出し、土地所有者等は土壌汚染状況調査を実施してその結果を都道府県等に提出することになります。
『3000㎡以上の土地(現に有害物質使用特定施設が設置されている場合は900㎡以上の土地)を形質変更するとき』は、都道府県等が土壌汚染等のおそれがあると判断した場合、土地所有者等に調査命令を出し、土地所有者等は土壌汚染状況調査を実施してその結果を都道府県等に提出することになります。
いずれの場合の土壌汚染状況調査においても一番最初におこなうのが『地歴調査』です。
なお、土壌汚染対策法に基づく調査は、法に基づく指定調査機関以外が行うことはできませんので、調査は土壌汚染対策法に基づく指定調査機関に依頼することになります。
◆法見直しで議論されている『地歴調査』の方向性は?~今までなかった施設承継や土地所有者の変更などでも地歴調査義務付けの方向性◆
中央環境審議会小委員会で示されている「土壌汚染対策法の見直しに向けた検討の方向性」によると、「土壌汚染状況調査等における制度の合理化・分かりやすさの改善等」などの論点が挙げられています。
「制度・運用の合理化・分かりやすさの改善」を見ると、中小事業者では有害物質使用特定施設の使用の廃止が廃業時で資金繰りが困難であり、多額の費用が必要となる調査・対策が実施できない事例が発生していること、調査が猶予されている土地において調査・対策が行われず、地方自治体も覚知できないまま土地の一部が売買されている事例があることなどが課題に挙げられています。
土壌汚染状況調査を法律上、『地歴調査』と『試料採取等調査』で構成されることを明確化し、調査契機を分けて考えることで、有害物質使用特定施設の設置事業場の敷地については、「地歴調査の契機は拡充、試料採取等調査は健康リスクの程度に応じて対象等を合理化すべき」としています。
具体的には、以下のような機会に『地歴調査』が義務付けられます。
【1】有害物質使用特定施設を廃止するとき(一部拡充)
【2】事業場の敷地で一定規模(900m2)以上の土地の形質変更を行うとき(一部拡充)
【3】有害物質使用特定施設を承継するとき(新設)
【4】事業場の土地の所有者等を変更するとき(新設)
⇒土地の所有者等の変更時に、調査結果の承継を強化する措置(例:当事者間の承継を義務化)を検討。国の適切な関与の在り方も検討。
※公正な土地取引、関係者における円滑な調査の実施等に支障を来たさないよう、調査に係る負担は合理的なものとし、行政の関与は必要最小限に。
現行法と異なり、「有害物質使用特定施設を承継するとき」と「事業場の土地の所有者を変更するとき」に『地歴調査』が義務付けられる方向性となっており、有害物質使用特定施設を保有する事業者や土地所有者にとって新たに対応すべき重要な事項が誕生する可能性があります。
◆地歴調査については地方自治体や関係団体等も好意的な意見◆
国での土壌汚染対策法見直しの議論では、実際に土地所有者などから届出を受ける東京都や名古屋市、業界団体などのヒアリングも実施されましたが、この『地歴調査』についてはほとんどのケースで好意的な意見が出ており、『地歴調査』の拡充等の論点は次期法改正で現実味を帯びてきていると言えるでしょう。
◆備えるために◆
先にも触れましたが、詳細な資料等があり、使用物質や使用個所を絞り込めれば、試料採取等調査の地点数等を減らすことができます。これは調査費用全体の出費を減らすことにもつながります。逆に言えば、適切な資料等による情報がないと、全調査項目を調査したり、絞り込めないまま対象土地全体で調査を行ったりすることになり、費用負担が大きくなることがあります。
また、昨今では高齢になった事業主の急死等によって、急遽、事業を承継するようなケースも出てきていますが、この際、事業主が亡くなったことで資料を含めた情報が不明になり、調査が難航したり、全項目を調査したり、地点数が増えるなどして費用負担が大きくなることもあります。
なので、筆者は以下のことが今後は重要だと考えています。
▼あらかじめ有害物質使用に関する資料等を確認し、整えておくこと
▼将来の施設承継や土地所有者変更に備え、事業主や土地所有者本人以外にも土壌汚染対策法上の地歴調査を行う可能性があることを共有し、資料等の情報を適切に管理しておくこと
▼事前に、地歴調査に詳しい土壌汚染対策法に基づく指定調査機関に相談しておくこと
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※中央環境審議会水・土壌環境関係小委員会における「土壌汚染対策法の見直しに向けた検討の方向性」は以下アドレスからダウンロード可能です。
https://www.env.go.jp/content/000252704.pdf
※「土壌汚染対策法の見直しに向けた検討」についての行政や関係団体の意見は以下アドレスから。
https://www.env.go.jp/council/49wat-doj/page_00074.html
https://www.env.go.jp/council/49wat-doj/page_00075.html
※次回は土壌汚染対策法に基づく指定調査機関で地歴調査に詳しい企業に、土壌汚染対策法の見直しの議論における地歴調査について、話を聞きます。
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