【2025年2月特集後編】地歴調査の専門家が見る土対法見直しの議論における地歴調査

トランスバリュー・リアルエステートサービス㈱代表取締役・安田晃氏インタビュー


土壌汚染対策法の見直しに向けて国の中央環境審議会における検討が始まった中、地歴調査の位置づけについて審議会小委員会におけるヒアリングでも自治体等の関心が高い事項になっていることが分かります。この地歴調査の動向について、調査を実施している指定調査機関はどのように見ているのか?とりわけ地歴調査に特化した事業を手掛けているトランスバリュー・リアルエステートサービス株式会社の安田晃社長に話を聞きました。(エコビジネスライター・名古屋悟)

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◆地歴調査の拡充には賛成…情報散逸防止のほか試料採取等調査の実施に向けた予算確保等の観点からも◆

――土壌汚染対策法の見直しの議論が始まり、この中で従来の制度では土壌汚染状況調査として一体的に行われてきた地歴調査と試料採取等調査について、「地歴調査」と「試料採取等調査」に区分するという流れが出てきています。

「土壌汚染に関する資料や情報の散逸が進み、地歴調査実施に支障をきたしているという点からも、過去の地歴情報を現時点で把握するという契機をつくる(拡大していく)という点には大いに賛成です。

本来は、水質汚濁防止法(下水道法)の有害物質使用特定施設の廃止後、法第3条第1項ただし書きによる調査猶予の確認申請をする段階で、地歴情報…少なくとも廃止された有害物質使用特定施設に係る地歴情報だけでも提出を義務付け、行政側で情報を蓄積していた方が良かったと思っていますので、そうした方向の議論が出てきていることは良い動きだと感じています。

地歴調査と試料採取等調査を分け、調査契機を増やすことで情報の散逸を防ぐだけでなく、地歴調査実施により、試料採取等調査の実施に向けた資金(予算)確保などの観点からも極めて重要だと考えています。

ただ、まだ決まっていないようですが、地歴調査の実施に対して指定調査機関による調査を必須とするのか、また、地歴調査の実施範囲をどこまでにするのか(試料採取等対象物質の選定までか、土壌汚染のおそれの区分の分類まで行うのか、もしくは、土壌汚染状況調査計画案までか)で、地歴調査実施による効果が変わってくると思います。

個人的には指定調査機関が地歴調査を行うのであれば、『試料採取等調査の計画が把握できる調査計画案まで作成しておくべきである』と考えています」

◆現状を踏まえた地歴調査拡充の課題◆

――地歴調査の現状を踏まえて今後、課題となりそうなことはありますか?

「大きく分けて2つの課題があると考えています。

1つ目は指定調査機関の数が長年増加していない(横這い、やや減少傾向にある)現状では、単に地歴調査の調査契機を増やすことに対して、業界内で人手不足が生じることは明白で、調査方法の何らかの合理化、効率化が必要だと考えています。

従前、試料採取等調査や浄化工事を主たる業務としている会社が新たに試料採取等調査にすぐに結びつかない可能性が高い地歴調査業務に、新たに部署を新設したり、人員を投入したりして、強化していくとなると、ビジネス面(採算面)や人材面での困難さが伴うと思われます。

現在、法に基づく地歴調査は属人的かつ労働集約型業務であり、現在の法地歴調査を短期間で実施を求められるとなれば、慢性的な人手不足が続いている土壌環境業界ではかなり致命的な状態になり得る部分があります。

2つ目ですが、具体的な地歴調査の作業では、過去の土壌汚染調査、対策工事の取りまとめが課題となっていくと思います。

昨今、実務でも過去の土壌調査や対策工事報告書を改めて精査するケースが増加しています。特に、今までの(法施行前も含む)の調査結果を現時点での法令に照らし合わせて、変更・追加情報(調査方法、調査項目、基準値等)を容易に判断・評価できる技術管理者が年々減少しているのではないかという印象があります。

業界全体として、自然由来土壌などの法対象の可否、特定有害物質の項目追加時期、基準値変更の変遷、法律・ガイドラインの変遷などをうまく伝承していく仕組みがないと、調査実施時と現在の法令レベルでの比較・評価が適切に実施できない事例が出てくる懸念を感じています。

例えば、過去の地下水汚染対策工事(原位置浄化工事)がなされた工場跡地で、トリクロロエチレンが令和3年(2021年)までの0.03mg/Lを基準に評価・対策され、対策実施済みとされたサイトで、新たに土地を評価するとなった場合、強化後の基準値(0.01mg/L)で、基準値変更前の調査時に0.02mg/Lで基準適合とされた地点(井戸)が、現時点では基準不適合と評価せざるを得ないケースがあります。また、分解生成物であるクロロエチレンの取扱についても同様です。

当時の調査結果に基づく汚染状況を適切に把握し、『過去は基準適合、現在は基準不適合』となる地点や調査不足の地点や範囲、さらに分解生成物(クロロエチレン)の評価など、大規模な稼働中の工場や工場跡地ではかなり煩雑、複雑化しているのが実態です。工場跡地ではその後、物流倉庫や商業施設等が新築され、所有権が移転し、さらに不動産売買に絡んだ相談も多く、評価に対してかなり複雑な案件も出てきています」

◆資料の収集における苦労◆

――実際の地歴調査では資料の収集等に苦労すると聞きますが。

「過去の公的届出資料…特に、水質汚濁防止法や下水道法に基づく特定施設資料に関して、工場側や事業者側がすべて保管していないケースがかなり多くの事例であります。

特に中小・零細企業で目立つほか、相続発生時などで書類が廃棄・紛失してしまっているケースも少なくありません。

地歴調査の依頼があっても、最初の調査開始段階で資料不足となり、まず情報公開請求を行わざるを得ない状況が発生しています。その情報公開請求に、指定調査機関と行政側双方で体力・時間がかかっており、その負担の解消も進めていただけたらと思っています。

例えば、届出者本人または委任状による指定調査機関に対しては、一定期間の公文書の貸与を容易にできるようにするなど、改善の余地があるように思います。現在、横浜市は当日のみの貸借は可能になっており、このような仕組みがほかの行政機関でも広がってくれると地歴調査が合理的にスピーディーに進むと考えています。

また、情報公開請求においても図面類の非開示(黒塗り)は業務に支障をきたしています。敷地の作図をCADでゼロから行うことも少人数の指定調査機関側には負担が大きく、この辺りも改善していただけると助かります。

一番の希望は、有害物質使用特定施設を有する工場・事業場の過去の届出書類がすべて電子化され、提供を受けることができる仕組みですが、費用面の問題もあり、実現はかなり難しいと思います」

◆◆

――これまでの中央環境審議会小委での検討状況等を踏まえて希望することはありますか?

「小委員会では調査結果の保存、承継などで国の関与を期待する声が多い気がしますが、どこまで国が具体的な施策ができるのか、相当な時間(最低5年以上)を要する印象があります。

区域指定の情報の地図化(GISデータ化)は、一部の民間企業(G-space、FP Reportなど)がおおよその位置をデータベース化しています。

個人的には各自治体でできないことを国が簡単にはできるとは思えないため、そのあたりの考慮した施策を実施してほしいと思います。

第2回小委員会のヒアリングにおいて、一般社団法人不動産協会からも要望事項が出ていますが、DB情報に井戸データを掲載してほしい、という点で土地所有者としては、区域指定の際、要措置区域の指定になるか、形質変更時要届出区域の指定になるか、極めて重要な話であり、情報開示を期待したいと思っています。

また、法改正とは論点が異なりますが、今般の土対法見直しによって調査の機会が増える可能性があることを考えると、新たな土壌汚染調査技術管理者の育成(令和6年度 受験申請者数939名/受験者数745名/合格者数61名)は極めて大きな課題だと考えています。

個人的には実務経験のみでの資格(技術管理者補などの名称)を増やすことで、一部の権限を付与することで打開は可能と思っています」

ーースムーズな地歴調査が進むような制度見直しが進むと良いですね。お忙しい中、ありがとうございました。(了)

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