【2023年夏特集⑤】土壌環境センター新会長:山下芳浩氏インタビュー

健全な土壌・地下水環境の創造のために調査・対策技術および評価・管理手法の研究、普及・広報活動をリードしてきた一般社団法人土壌環境センターでは今年度総会・理事会において役員の改選が行われ、山下芳浩氏(日鉄エンジニアリング㈱取締役常務執行役員)が新会長に選任されました。土壌汚染対策法の次期改正に向けた動きも見え始めるとともに、土壌・地下水環境を巡る新たな課題も顕在化している中、新会長としてどのようなことをポイントに考え、どのような取り組みを進めていきたいのか、山下新会長に話を聞きました。(エコビジネスライター・名古屋悟)

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◆汚染の除去だけでなく脱炭素、生物多様性保全等も踏まえた持続可能なものに◆


――新会長ご就任、おめでとうございます。抱負をお聞かせください。

「6月8日の理事会で会長に選任されました山下芳浩でございます。1996年に設立し、設立から27年が経った土壌環境センターは、これまで日本の土壌・地下水汚染対策の推進や技術の向上・普及に大きな役割を果たしてきたと思っています。これからも我々の活動は重要なものであり、会員企業にとっても参加意義のあるものと認識しています。

近年、土壌・地下水汚染対策も単なる汚染の除去だけでなく、脱炭素や生物多様性保全の動きも踏まえながら、持続可能なものとして進めていく必要があります。

センターとしても会員企業の活躍の場を広げるとともに、センターの活動も活性化できるよう今後の事業の方向性を見出していきたいと考えています。

このため、昨年から『土壌環境センターの事業・活動の在り方に関する懇談会』を設置し、現状を振り返りつつ、今後の方向性について検討するため、会員企業の皆様のご意見も伺いながら議論を進めているところです。

センターの舵取り役を担うのは重責と感じていますが、会員企業の皆様のご協力もいただきながら、さらに活動が活性化していくよう尽力していきたいと思っています」

――土壌汚染対策法が施行されて20年が経過した中、現在の土壌環境をどのように捉えていますか。

「センターでは昨年11月16日に土壌汚染対策法制定20周年記念シンポジウムを開催し、土壌汚染対策法のこれまでとこれからを考えたところです。

土壌汚染対策法が2002年に制定、2003年に施行された頃は、土壌汚染判明事例の増加、健康不安の増大と調査・対策のルール化が必要となり、初めてのストック汚染に対する対策法ということで、どのように運用されるのか、社会にどのような影響を与えるのか不安もあったと思いますが、その後2009年、2017年の2度の改正を経て法制度も定着し、土地の取引の際などに汚染を把握して適切な対策を講じるという考え方も一般的になってきたと思われます。

その結果、土壌汚染対策はかなり進み、より良い土壌環境が後世に引き継がれるようになってきたのではないかと考えています。

しかしながら、有機フッ素化合物(PFAS)や1,4-ジオキサンなどの新たな課題や未解決の課題もあり、また制度・ガイドライン等の点検・見直し、さらには技術管理者等の人材育成・確保などへの対応もしっかり進めていかなければならないでしょう」


◆PFASも重要かつ困難な課題と捉え自主事業等で取り組み進める◆


――今、ご指摘のあったPFASなど新たな課題も出てきた中、会長として今後重点的に取り組むべきと考えていることはありますか?

「PFASについては、社会的な関心も高く、センターとしても重要かつ困難な課題と捉えており、自主事業のテーマの1つとして情報収集を行いつつ、環境省の請負事業も受注して積極的に取り組んでいます。

具体的には、センターの自主事業のテーマとして、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)・PFOA(ペルフルオロオクタン酸)・PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)等のPFASについて、前駆体から生成経路も考慮した調査・対策手法を提案することを目的に活動を進めており、昨年度はPFASの国内外の規制動向、前駆体を含めた物質の分類・物性、土壌・地下水中の挙動、分析手法、現地調査・対策手法について、海外文献・国内文献を対象に情報収集と整理を行いました。

このほか、脱炭素や生物多様性を目指す社会の新しい動きの中で、こういったことにも積極的に関わるような土壌・地下水汚染対策を、環境省や自治体との連携を一層密にして、時代に合わせて促進できるよう取り組んでいきたいと思っています」


◆適切な調査・対策により持続可能な土地利用図られるよう会員には一層の努力を◆


――今後、センター会員に期待することは何ですか?

「法施行から20年、センター設立から25年以上が過ぎて、土壌汚染対策も社会に定着してきましたが、まだ汚染問題や対策に対する一般社会の認知度はそれほど高くないと思っています。

センター会員は、我が国の土壌・地下水汚染対策を牽引する企業であり、適切な調査・対策により持続可能な土地利用が図られるよう一層努力していただきたいと思っています。

具体的には、『土地所有者、自治体、周辺住民などのステークホルダーからの相談に親切に対応し、必要に応じてリスクコミュニケーションにより問題の所在をよく説明すること』、『対策として従来型の掘削除去によらず二酸化炭素排出量がより少ない新しい技術をもっと取り入れてカーボンニュートラルの実現に貢献すること』、『リスク評価に基づくリスクマネジメントを進めて過度な対策を控えること』などが重要だと思っています」


◆資格保有者には専門知識を活かして問題解決に向けた適切な助言・対応を◆


――土壌環境監理士資格制度が国土交通省の「公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に資する技術者資格」に登録されるなど、センター資格制度の役割への期待が高まっています。センターの各資格保有者に期待することは何ですか?

「センターでは調査から対策まで幅広く監督できる土壌環境問題のスペシャリスト『土壌環境監理士』、現場の安全管理を担う『土壌環境保全士』、基礎的な知識を持って土地を管理できる『土壌環境リスク管理者』と、異なるレベルの資格制度を運用しています。

資格を持っている方々は、ぜひ専門知識を活かして問題解決に向けた適切な助言・対応を行い、調査・対策の円滑な実施に貢献して欲しいと思います。

各資格制度の詳細については、センターホームページから『資格制度と人材活用のご案内』(https://www.gepc.or.jp/shikaku-info/pamph.pdf )をダウンロードできますので、参照してください。

なお、『土壌環境監理士』の受験者が最近は少なくなってきていますが、調査から対策まで幅広く対応できる上級技術者として、技術士に近いステータスですので、取得する意義はとても高いものと思っています。先ほど指摘がありました通り、国土交通省の「公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に資する技術者資格」に登録されるなど今後、その役割に大きな期待が集まっていますので、ぜひ多くの方に受験していただけたらと思っています」


◆汚染を早めに把握することで適切な時期に対策可能に◆


――土壌汚染の当事者となる土地所有者や有害物質使用特定施設保有者に向けて一言お願いします。

「土壌汚染対策法では、工場・事業場の操業期間中の調査猶予も可能になっていますが、汚染を早めに把握することで、適切な時期に対策を講じることができます。

また、コストがかかりCO2等の環境負荷が高い掘削除去に頼らない、原位置浄化などの技術も進歩しており、多様な対応が可能になっています。

汚染状態の適切な把握と適切な対策の選択のため、センター会員企業にご相談いただけたらと思います」

――今後のセンターのさらなる活動に期待しています。本日はありがとうございました。

※一般社団法人土壌環境センターホームページ(https://www.gepc.or.jp/

広報「土壌汚染情報局~中小企業・個人事業者が向き合う土壌汚染」~Presented by ECO SEED

中小企業・個人事業主が土壌汚染に対応する時に参考となる情報を掲載していきます。 ※情報は時間経過とともに変わりますので、最新の情報をご確認してください。 ※当サイトで紹介する手順や技術、サービスの情報は、制度に照らし合わせた正当性、調査や対策の正確性等保証をするものではありません。土壌汚染調査・対策を実施する場合は必ず、所在する自治体担当部局、土壌汚染対策法に基づく指定調査機関にご相談ください。

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