【2025春特集②】2025年度も進化する東京都の中小事業者土壌汚染対策支援事業

◆2025年度からは工場跡地等における持続可能な土壌汚染対策支援事業で「操業中事業場」も対象に◆

中小事業者の土壌汚染対策支援に注力している東京都環境局は、2023年度から都内の工場等における持続可能な土壌汚染対策を支援する事業を実施しています。そしてこのほど、今年度(2025年度)から新たに同事業のうち「地下水汚染拡大防止対策支援」において「操業中事業場」も対象にする方針が2月の都議会において明らかになりました。都が進める中小事業者の土壌汚染対策支援はどのようなものか。中小事業者等が数多く存在する東京において事業者の土壌汚染対策を支援する都の取り組みを取材しました。(ECO SEED 名古屋悟)

◆中小事業者の円滑な土壌汚染対策をサポートするアドバイザー派遣制度◆

土壌汚染対策は中小事業者において資金的な課題などから取り組みが進みにくい状況が以前から指摘されています。水質汚濁防止法に基づく有害物質使用特定施設の廃止時に届出を義務付ける土壌汚染対策法第3条の流れにおいては、有害物質使用特定施設を廃止しても事業を継続する場合などにおいては調査の実施を猶予する規定がありますが、この規定を利用して調査の猶予を選択するケースも少なくありません。一方で、この猶予中に事業者が亡くなるなどし、相続者等が土壌汚染対策に直面して苦労するというケースもあり、中小事業者の土壌汚染対策をいかに進めるかは各地域で課題になっています。

こうした状況下、中小事業者が数多く存在する東京都では、中小事業者の円滑な土壌汚染対策の取り組みを支援するため、土壌汚染対策関連の国家資格や実務経験がある専門家を派遣する「東京都土壌汚染対策アドバイザー派遣制度」(https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/chemical/soil/support/advisor )を2011年度から実施しています。

2011年度には工場等の廃止時に法令上必要な調査や対策について助言する「廃止時土壌汚染対策アドバイザー」の派遣を開始し、2012年度からは操業中の工場等の自主的な取り組みについて助言する「操業中土壌汚染対策アドバイザー」の派遣も開始しています。「操業中土壌汚染対策アドバイザー」については、2021年度に拡充され、より的確な助言を受けるために希望によりアドバイザーが土壌調査することも可能(条件付無料)にしています。

「いずれもアドバイザーの派遣は無料で、これまでに数多くのご相談が寄せられています。土壌汚染の可能性等のお悩みを抱えている方はぜひご相談いただければと思っています」と都環境局担当者は話します。

また、2017年度には簡易調査(https://www.kankyo1.metro.tokyo.lg.jp/archive/chemical/soil/information/analysis/index.html )も開始しています。簡易調査の結果は、工場等の廃止後に義務付けられている法定調査とは異なりますが、事業者による操業中の化学物質の自主管理に活用でき、将来的に向き合う土壌汚染対策に備えるための支援として運用されています。

◆工場跡地等における持続可能な土壌汚染対策支援事業◆

こうした支援策に加え、2023年度にはさらに一歩踏み込む形で、「工場跡地等における持続可能な土壌汚染対策支援事業」(https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/chemical/soil/support/project )を開始しています。

この実証事業は2023年度から5年程度を目安に行うものですが、円滑な土地利用の転換と、掘削除去の削減・抑制を視野に土壌の3Rに誘導する取り組みが必要になっていることを踏まえ、基準不適合の土地において新たに土地活用を行う人を支援する画期的な事業です。土地売買時における掘削除去の慣例を見直すため、汚染土壌を残して土地を活用する場合の「被覆盛土」や、狭あいな土地での「地下水汚染拡大防止技術」を支援しています。

売り主側の中小事業者の負担軽減及び土地の活用促進、土壌汚染対策に伴う温室効果ガスの排出抑制等の促進等の効果が期待されています。

売り主となる中小事業者は都が指定する新たに設けたアドバイザーである「土地利用転換時アドバイザー」による最低限の法定対策、買主マッチング等の助言などの下、盛土被覆や地下水汚染拡散防止対策など法で定められた措置を実施。

売り主と買い主は「土地利用転換時アドバイザー」によるコーディネートを受け、買い主は土地利用転換時アドバイザーによる買主の土地利用計画に応じた助言の下、被覆盛土等で管理した土地や地下水汚染対策技術を適用した土地を活用するというものです。

◆被覆盛土で基準不適合土壌を遺したまま土地活用◆

「被覆盛土支援」や「地下水汚染拡大防止技術支援」を少し詳しく見ます。

「被覆盛土支援」(https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/chemical/soil/support/project/morido )は、買い主(開発者)や土地の返還を受けたものが基準不適合土壌を遺して土地活用することを支援するもので、被覆盛土部分相当費用について支援するとし、1㎡あたり4,445円(最大900㎡まで)を都が負担します。これまでに1件が採択され、事業を終えています。

◆都認定の地下水汚染対策技術で土地の活用…23技術を認定済み◆

「地下水汚染拡大防止技術支援」(https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/chemical/soil/support/project/groundwater )は、都が募集・認定した地下水汚染の拡大を防止する技術を、狭あいな土地に適用して効果を検証するもの。都や区市に土壌汚染状況調査結果の報告書を提出しており、地下水汚染拡大防止区域相当である土地が対象で、実証する土地の所有者等に対策実証費用を支払うとし、最大3,000万円を都が負担します。これまでに4件が採択され、3件で事業が完了しています。

都の担当者は「実績を積み上げ、対策技術をマニュアル化するなどし、掘削除去の抑制の機運醸成、商習慣の転換を促進し、持続可能な土壌汚染対策の普及を進めたいと考えています」と述べています。

なお、「地下水汚染拡大防止対策技術支援」では、これまでに23技術が認定されています。

◆2025年度から操業中事業場における地下水汚染拡大防止技術支援も開始◆

この「地下水汚染拡大防止技術支援」はこれまで、有害物質使用特定施設を廃止した事業場が対象でしたが、2025年2月の都議会において、操業中事業場の支援を問われた小池百合子都知事が新たに「操業中事業場」も対象としていくことを答弁で明らかにしました。

都環境局担当者に聞くと、「操業中事業場を対象とした地下水汚染拡大防止技術支援は2025年度内から実施する予定で、操業中事業場で適用できる原位置浄化技術等の公募を行い、選定委員会を開催。技術選定後、同支援を希望する中小事業者の募集を開始したい」としており、土壌汚染対策を検討している操業中の事業者にとって、この支援策の利用も選択肢の1つとなりそうです。

◆中小事業者の土壌汚染対策ガイドラインも整備◆

このほかにも、都環境局は、「中小事業者のための土壌汚染対策ガイドライン」(https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/chemical/soil/support/guideline )も作成しています。

このガイドラインは、土壌汚染対策を実施しようとする中小事業者に向けて、土壌汚染による健康リスクや土壌汚染の調査に関する基礎的な知識、低コスト・低環境負荷で健康リスクを確実に回避する対策を選択するための具体的な手順等をわかりやすく示すことを目的としたものです。

2024年にも改訂版が公開されていますが、これまでの改訂で2019年の土壌汚染対策法改正の内容のほか、操業中対策の重要性、跡地利用等を考慮した具体的な土壌汚染対策事例を追加する等しています。

「これから土壌汚染対策を考える事業者にとって参考となる情報だと思っています。都環境局ホームページからダウンロードもできますので、ぜひ一読いただけたらと思っています」と呼びかけ、ガイドラインの利用を促しています。

中小事業者の土壌汚染対策を支援するため、「ガイドライン」、「アドバイザー派遣」、「工場跡地等における持続可能な土壌汚染対策支援」などさまざまな支援策を講じている都では今後、環境確保条例のうち土壌汚染対策に関する事項の見直しも始まろうとしています。

膨大な数の中小規模事業者が存在する東京都において、都が提示する支援策で中小事業者の土壌汚染対策がどのように進むのかは、今後の国全体における中小事業者の土壌汚染対策の方向性を考える上でも注目されるものであり、成果等が注目されます。

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広報「土壌汚染情報局~中小企業・個人事業者が向き合う土壌汚染」~Presented by ECO SEED

中小企業・個人事業主が土壌汚染に対応する時に参考となる情報を掲載していきます。 ※情報は時間経過とともに変わりますので、最新の情報をご確認してください。 ※当サイトで紹介する手順や技術、サービスの情報は、制度に照らし合わせた正当性、調査や対策の正確性等保証をするものではありません。土壌汚染調査・対策を実施する場合は必ず、所在する自治体担当部局、土壌汚染対策法に基づく指定調査機関にご相談ください。

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