【2025年夏特集】持続可能な社会を目指す東京都の土壌汚染対策の展望

◆東京都環境局環境改善部・矢野明子土壌地下水汚染対策担当課長インタビュー◆

土壌汚染の施策を巡り国では土壌汚染対策法の見直しが進む中、東京都でも環境確保条例に基づく土壌汚染対策制度の見直しが始まりました。また、条例制度見直しだけでなく、中小事業者を対象とした工場跡地等における持続可能な土壌汚染対策支援事業や土壌汚染情報公開など先進的な取り組みが進められています。多くの有害物質使用特定施設が存在する都の動きは関係各方面から大きな関心が集まっています。今後の東京都の土壌汚染施策の基本となる考えや現状、今後の展開について、本年4月に環境局環境改善部土壌地下水汚染担当課長に就任した矢野明子担当課長に話を聞きました。(エコビジネスライター・名古屋悟)

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◆環境基本計画の考えに基づく持続可能な土壌汚染対策の選択、情報共有◆

――東京都では2022年に環境基本計画が策定され、土壌汚染対策についても2050年おけるあるべき姿が示されました。今後、このあるべき姿に基づき施策が展開されていくものと思いますが、土壌汚染対策のあるべき姿とはどのようなものでしょうか?

「2022年に策定した『東京都環境基本計画2022』では、目指す都市の姿として『未来を拓くグリーンでレジリエントな世界都市・東京』を掲げています。

この基本的な方針に基づく土壌汚染対策の2050年のあるべき姿は、『持続可能な土壌汚染対策が選択されるとともに、土壌・地下水中の有害物質濃度等の情報が社会全体で共有・管理されている』こととしています」

◆土壌の3Rと届出情報の社会全体での共有◆

――あるべき姿を目指すための今後の方向性とはどのようなものでしょうか?

「環境基本計画では中間目標として2030年目標を示しており、『土壌汚染対策法(以下、土対法)及び東京都環境確保条例(以下、環境確保条例)の対象となる土壌汚染対策については、土壌の3Rが考慮されるとともに、土壌・地下水に関する届出情報が社会全体で共有されていること』となっています。

この方針を踏まえ、土対法及び環境確保条例の制度そのものが、土壌の3Rを考慮し、かつ情報共有を進めるものとなることを目指して様々な検討を進めています。

これに加えて、都の施策としての普及啓発、事業者支援、情報公開を高いレベルのものとしていくことも重要なポイントとなります。また、これらを支えるための調査研究についても進めていく考えです。

なお、これらの取り組みは、東京都土壌汚染対策検討委員会https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/chemical/soil/information/dojou-kentou )にて公開で議論しながら進めており、過去の検討資料等も公開していますので、ご覧いただきたいと思います」

◆制度の複雑さなど指摘し、改善を国に要望◆

◆地下水調査のあり方など論点に条例制度見直しの議論開始◆

――方向性のうち、環境規制に係る制度見直しについては、土対法の見直しを進めている国への要望を行っているほか、都においても環境確保条例に基づく土壌汚染対策制度の見直しに向けた検討が始まっています。現時点でのポイントはどのようなものでしょうか?

土対法については、前回改正の際にも都からの意見も踏まえて、自然由来等土壌に係る各種の特例や汚染土壌の飛び地間移動など、意欲的な見直しをしていただいたと思っていますが、一方で、土対法の制度が複雑になってしまった点については改善が必要ではないかと考えています。

このため、都としては、昨年度(2024年度)から始まった国の中央環境審議会水環境・土壌農薬部会土壌制度小委員会において、国の『見直しに向けた検討の方向性』に対して、都の現状や課題を踏まえ、①制度の複雑化、②運用事項の多さ、③アンバランスな規制の解消に向けた具体的な意見や改善策を提案するなど、要望を行ったところです。(https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/2025-06-23-170723-173

例えば、①制度の複雑化については、認定調査の使い勝手の改善を要望させていただき、②運用事項の多さについては、区域指定前の土地の改変に係る指導について指摘させていただきました。また、③アンバランスな規制の解消については、自然由来等の土地での規制緩和などを要望させていただいています。

本年6月末までの中環審小委員会の検討状況を見ますと、都の要望について前向きに検討いただいている項目もあり、今後の検討の行方を注視しているところです。

今後も法令だけではなく、ガイドライン事項に至るまで、使い勝手のよい制度となるよう現場の立場から意見を伝えていきたいと思っています。

一方、環境確保条例に基づく土壌汚染対策制度については、2019年の条例改正において、法との整合を図りつつ、条例独自の目的である地下水環境保全の考え方を取り入れたところです。これを体現しているのが、周辺への地下水汚染の拡大の恐れがある土壌汚染を見つけ、対策するための、都独自の基準・調査・措置の規程です。

この規程を運用する中で課題も見えてきており、区市や指定調査機関から寄せられた意見も踏まえ、『地下水調査の方法』、『地下水の継続監視の完了要件』、『地下水環境保全に係る規定の除外となる土地の範囲』について、見直しのための検討を進めていくこととし、7月8日に開催しました東京都土壌汚染対策検討委員会において事務局案を提案させていただきました(https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/2025-07-07-181114-906 、うち資料1を参照)。

国への意見と同様、条例制度も合理的で実効的な制度となるよう、土壌汚染対策検討委員会で議論しながら、見直しを図っていきたいと思っています」

◆持続可能な土壌汚染対策に向けてガイドブック作成に続き支援事業等も展開◆

◆支援事業これまでに7件で実施◆

――法や条例の規定とは別に、自主的取り組みの促進に向け、中小事業者の持続可能な土壌汚染対策の支援事業等も展開されています。現在までの進捗状況についてお聞かせください。

「環境基本計画の目標である『土壌の3R』に関連した項目となりますが、これまでに『持続可能な土壌汚染対策ガイドブック』(https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/chemical/soil/information/grsr )を作成したほか、土壌汚染処理技術フォーラムなどの開催を通じて普及啓発を行ってきました。

2023年度からさらに踏み込んだ支援として、汚染土壌を残したまま工場跡地等の土地を利活用する方に、土地利用転換アドバイザーhttps://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/chemical/soil/support/project/land-use )による助言と、対策費用の支援を実施することで、商慣習の転換を目指し、『工場跡地等における持続可能な土壌汚染対策支援事業』(https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/chemical/soil/support/project )を進めているところです。

この支援事業では、『被覆盛土支援』と条例独自の地下水環境保全の考え方に基づき対策が必要となる土地に適用できる『地下水汚染拡大防止対策技術支援』を行っています。

地下水汚染拡大防止対策技術支援』においては、有用な地下水汚染拡大防止技術の確立のため、公募・認定した技術の実証を支援しているところです。技術についてはこれまでに23技術について認定させていただいています。

実績としては、『被覆盛土支援』は2023年度に1件、『地下水汚染拡大防止技術支援』は2024年度に5件、2025年度(6月末現在)1件で実施しています。

地下水汚染拡大防止技術支援』については、これまでは中小事業者の事業場跡地での実証を対象にしていましたが、2025年度からは操業中の事業場も対象にすることとし、本年6月末より適用可能な技術を公募しています(https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/chemical/soil/support/project/koubo)。

今後、10月以降に技術を認定し、順次実証に適用していきたいと考えています」

――この支援事業は2027年度までの5年間の事業となっていますが、支援事業終了後のイメージなど今後の見通しはどのように考えていますか?

「この支援事業では適用したケースについて事例として公開していきます。

都ホームページの地下水汚染拡大防止対策技術支援のページにおいて、認定技術のうち支援事業の実績があるものについて各技術の表に実績を設け、公開しています(https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/chemical/soil/support/project/groundwater )。

こうした事例をホームページで公開していくとともに、土壌汚染技術フォーラムなどの場でも紹介していくことで、土壌の3Rへの自主的な取り組みが広がることを目指しています」

◆前回条例改正以前の届出情報の公開を目指し検討中◆

――方向性のうち、情報共有等に関する取り組みの現状、今後の見通しについても教えてください。

土壌汚染対策検討委員会でもお示ししましたが、条例制度に基づく届出については、2019年の条例改正、2024年の規則改正で、地歴調査を含む調査結果については全て台帳として公開の対象としており、環境局HPの『土壌汚染対策法及び環境確保条例に基づく台帳情報公開システム』(https://dojou.kokai-system.metro.tokyo.lg.jp/SoilPollution/Search/Home/Index)においてどなたにも閲覧いただけます。

台帳情報公開システムについては、2025年度から法・条例一括検索も可能となっており、より活用しやすいものを提供できるようになったところです。

一方で、条例改正以前の届出情報については、台帳制度とは別に、都の情報公開への取り組みの一環としてHPでの公開を目指しており、7月8日の検討委員会で議論を行ったところです(検討委員会資料2参照)。台帳規定整備以前の届出情報を改めて整理するということで、時間・労力がかかる取組になり、委員からは『時間はかかってもなるべく現在公開している情報と同じような形にしてほしい』という意見をいただいておりますので、公開の方法や進め方については、検討委員会の中で改めて検討していきたいと考えています。

また、台帳とは別に現在取り組んでいる『土壌汚染状況調査の詳細結果のオープンデータ化』については、CSV形式で、調査地の位置情報の座標・回転角度、区画・深度ごとの各物質の調査結果を順次整理しているところであり、『東京都オープンデータカタログサイト』(https://portal.data.metro.tokyo.lg.jp/、「土壌汚染状況調査結果」で検索 )に掲載しています。

本年4月から稼働している、土壌汚染届出申請システムhttps://dojou.system.metro.tokyo.lg.jp/csm)では、調査結果報告用のExcelデータから直接調査結果をシステムに取り込むことができるため、オープンデータへの変換が容易にできるようになります。今後は、当該機能を活用することにより、データ公開を効率的に進めていく予定です。

こうした土壌汚染に関するデータが蓄積されることにより、関係者が土壌汚染に係る情報を活用し、土地の利活用や自然由来等土壌への合理的な対応が進むことを期待しています」(終わり)

※記事中の図は、すべて東京都資料より。

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中小企業・個人事業主が土壌汚染に対応する時に参考となる情報を掲載していきます。 ※情報は時間経過とともに変わりますので、最新の情報をご確認してください。 ※当サイトで紹介する手順や技術、サービスの情報は、制度に照らし合わせた正当性、調査や対策の正確性等保証をするものではありません。土壌汚染調査・対策を実施する場合は必ず、所在する自治体担当部局、土壌汚染対策法に基づく指定調査機関にご相談ください。

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